「今日は泊まりましょう」
えっ、何言うてんの、この医者!たかだが痙攣ごときで入院って。
「嫌です」決然と。
救急治療室に搬入されてすでに1時間、点滴続けてきたせいか痙攣も収まって、あとは疲れを取ればいいだけ、家で休養でいいだろ、なんで入院すんの?!

その場は、尿や血液の検査結果を見てからってことになったが、なんだよ、患者入院のノルマでもあるのかよ、って疑っちまったな。
点滴ばかりか、尿管にまで管差し込まれて、おしっこ採取、おいおい、まだおしめする歳じゃないだろ、なんて言うわけにもいかず、ズボンパンツ脱がされて、有無を言わせず、痛ぇぇぇ!
そりゃ確かに、無理に無理重ねて21.9キロ走り切ったせいで、極度の脱水症状起こして、それが強烈痙攣いに繋がったってご指摘は、ごもっとも。うん、確かに水分補給少なかったよ、途中の給水所じゃ数か所でスポーツドリンク2口、3口飲む程度だったからなぁ。でも、俺って昔の人だから、運動時は水飲むな!の教えが染み着いちまってるのよ、実際、飲まなくても乗り切って来れたし、これまでも。
が、実際、この激痛に襲われてみて、やっぱもっとがぶがぶ飲んでおきゃよかったと反省しきりなんだが、レース中のトイレ恐怖てのもあったからなぁ、それでなくても頻尿傾向なのに。
排出された尿の容器見せながら、
「ほらぁ、これっぽっちしか溜まってない」
って、そんなもん当人に見せびらかすなよ。
「これ、腎機能が落ちてる証拠、やっぱりお泊りね」
急性腎不全!勝ち誇ったような医者の宣告に、返す言葉とてなく、しぶしぶ人生初の入院となった、トホホ。
点滴のチューブ腕に差しつつ、ちんちんにゃ尿採取管、その先はプラスチックの保存容器これもくっ付けて、入院病室に移動、たった2本の管だが、なんか、人口栄養で生き延びる重病人の気分だな。
なんたって、この採尿管の違和感ってないぜ。まるでしっこしてる気ないんだが、これで膀胱から流れ出てるんか?見ればたしかに溜まった尿の量は増えている。やれやれ、こんなのいつまで付けておくんだよ。どうやら、夜中もこのまんまみたいだぜ。
腎臓病患者用の塩分控え目、いや、濃い味好みの俺としちゃ、まるで無味な夕食無理やりかっこんで、やれやれ、この腹部の違和感と筋肉疲労とお付き合いしつつ夜を過ごすのか。
全身不快、それでも疲れには勝てず、浅い眠りで朝を迎えた。
「おしっこの管抜きます」
えっ、若い看護師姉さん、あんたやるの?俺のちんちんから?
初の患者体験、患者と医療者の関係が納得できてねえからなぁ、なんて思い悩む暇もなく、あっという間に引き抜いちまった。
「おしめの着替えどうしますか?」
「えっ、あ、後で自分で」
って答えるのがやっとだった。
やれやれ、違和感どっぷりのおしっこ管から解放されて、あぁ、なんと爽やかな気分なんだ!さて、退院の時間は?
と、待っていたら、主治医の兄ちゃん、顔出して、血尿出てるし、壊れたたんぱく質の破片も出てるから、もう一日入院ねってまたもや嬉しそうに言い置いて行きやがった。
もう、休養と諦めるしかないな、すべては医者が握ってるわけだしな。神さんに届けてもらった充電器でスマホ復活したから、韓ドラ『オクニョ』でも見ながら過ごすさ。
が、この気楽に入院療養1日が曲者だった。
点滴ぐらいなら我慢するぜ。なんて、浅はかだった。自然流下式の排尿が無くなったってことは、自分で出すってことだ。どこで?トイレで!
新たな拷問の始まりだった。
だって、500mlの点滴大袋?次から次と切れ目なくぶら下げやがるんだもの、そりゃ出るは、おっしこ。1時間おきのトイレ通いが40分ごとになり、ついには20分に一度になった。尿意をもよおすたびに起き上がりベッドからはいずり降りて、隣のトイレに点滴スタンド引きずりながら、そろりそろりと歩み入り、排尿、その合間に寝る!?しかも、ただ出すだけじゃない、備え付けの計量カップで尿量計って、記録しろってんだ。
真っ暗な夜中に、どうやって記載しろっての。トイレから出て来るたんび、スマホのライトをオンにして記入、終わればそろりとベッドに横たわりうとうと。
なんと、記録用紙にゃ15回以上のトイレ通いが記録されてたぞ。
眠りに落ちては尿意に起こされる、地獄の一夜が過ぎて、もう勘弁だ!これ以上の点滴は拒否するぞ、って思ったところで言いだすわけにはいかず、朝の先生顔出し。
「うーん、まだ、血尿混じってるしぃ・・・」
って、なんだよなんだよ、もう一晩なんて言うなよ。
「腎機能の値とてもいいから、退院で」と、にやり。
あんた、俺のことからかってるな。が、まぁ、退院なら許す。
普通患者用の食事、うん、これなら美味くはないが、我慢はできる、って贅沢してたのか、俺の食生活?シャバの暮らし?健康っていいなぁ、改めて実感したぜ。
10時の退院まで、さらにもう一話『オクニョ』を楽しんで、迎えの神さんとともに退院手続き完了。うん、こうやって世話してくれる人がいるってこともありがたいことだ、おひとり様だったら、どうすんだろう、入院中の日常品やらの補給とか。
支払った経費も含め、そこかしこ不自由をしのぎつつ治療、入院を続ける患者さんたち、それを支える家族、大変だなぁ。こりゃ絶対、医療自己負担の増額なんて認めちゃなんねえよな、ついでに言うなら、救急車が無料ってのは、素晴らしい制度だって感心したぜ。呼ぶかと問われた時、一瞬、救急車有料のアメリカを思い浮かべて、躊躇しかけたもの。
さまざま検査されて、どこかしら引っかかるんじゃないか?って不安は夫婦ともどもだったが、幸い、血圧も心臓も糖尿も異常なし、腎臓は元気、それもこれも走ってたからなんだけど、さて、この先どうするランニングは?